Zero-Alpha/永澤 護のブログ

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築地8


2004.10
子どもの嗜癖的行動パターンへの基礎的行動変容アプローチ

(1) Y君自身が、「ほとんど毎日遅刻してくる」といった状態、すなわち学校への
遅刻を繰り返す自分自身の状態に関して「これではいけないと思って」いる。また、遅刻を引き起こす主要因として、「晩遅くまでコンピューターゲームをして朝起きることができない」というコンピューターゲームが嗜癖となった生活習慣が存在する。以上から、Y君の問題は、「晩遅くまでコンピューターゲームをして朝起きることができないことにより、ほとんど毎日学校に遅刻してしまう」というY君の嗜癖的な生活習慣に基づく行動パターンである。
 次に、Y君の行動をアセスメントするために必要な他の情報としては、主に以下のようなものがある。
1.
学校での様子を「学校生活の楽しさ」という視点から見る。その具体的要因として、授業など学業に対する関心度・集中度。成績に関しての情報、特に平均よりかなり下回る教科がないかどうか。また、学校での友人関係についての情報。良好な(快活で自然に会話できるといった)友人関係が存在するかどうか、孤立していないかどうか、さらにはいじめられていないかどうか等。これらの情報は、担任・各教科担当教員を通じて、または独自に(生徒が担任に知らせずに保健室等に来た場合)スクールカウンセラーが収集する。
2.
食事、特に朝食をどれだけバランスよく栄養が充足された状態で摂取しているか。この情報は、母親が必要なら保健師や栄養士等の専門家のアドバイスを受けてモニターする。
3.
(母子家庭ではない場合)父親のY君に対する関与の質と度合い。具体例としては、父親がY君と朝食・夕食を共にする頻度とそこでの会話の頻度および内容(Y君の日頃の学校生活や自宅での生活に関心を示したものであるかどうか等)。この情報は、父親にその趣旨を理解させた上で父親自身のセルフモニタリングと母親による父親の観察により収集する。
(2) 第一のターゲット行動は、コンピューターゲームを時間の制限(の感覚)な
く夜遅くまで継続してしまうY君の嗜癖的な生活習慣に基づく行動パターンである。介入目標としては、初めから毎日コンピューターゲームをするという行動そのものを禁じるのではなく、夜遅くまで継続しないように一定の時間を限定し、その時間内にのみ行う習慣をつけさせることとする。これが一つ目のターゲット行動である。次に、遅刻をするという行動が二つ目の修正すべきターゲット行動となる。
以上から、コンピューターゲームをするという行動を記録する際の焦点は、1.一定の時間内(例えば19:00から20:00までの間)に限定して行ったかどうかであり、2.一定の時間に限定されることにより夜更かしが無くなった結果、実際に学校への遅刻の回数が減少したかどうかである。
(3) 上記(2)の「コンピューターゲームを一定の時間内(19:00から20:00までの
間)に限定して行ったかどうか」に関しては、Y君の自覚と自律的生活習慣・自己管理能力の育成を促すためY君自身が記録するものとする。これは、母親(と父親)との約束という形を取り、契約意識の醸成という基本的な教育効果を持たせる意味もある。同時に、母親がY君の行動を観察してモニタリングする。また、Y君自身がつけた記録を母親または両親が定期的にチェックする。次に、遅刻をするというターゲット行動に関しては、担任からの情報をスクールカウンセラーが集約してモニタリングする。
(4) 原則として毎日20:00のゲーム終了が約束された時点で本人が記録すること
とする。もしその時点でゲームをやめていなかった場合は、事実上の終了時点で本人が記録する。特に注意しなければならないのは「どこで」であり、上述の「本人との約束」の基本事項として、「今後は自分の部屋でやってはならず、必ず居間でのみゲームをやること」という条項を入れて本人と約束させるということである。勿論、居間でしかゲームができないように物理的に設定する。その理由は、自分の部屋にこもったままでやらせては、事実上、上記の介入とその記録が不可能になることが容易に予測されるからである。また、居間という家族のコミュニケーションの場を共有させることで、公共的なルールを遵守するという約束意識を根付かせることにもなる。
(5) 上記から、観察方法は以下のようになる。さしあたり毎日ゲームをするとい
う行動自体の修正は目標とせず、まず「ゲームは毎日やってもよいが、かならず居間で、また19:00から20:00までの間に限定して行うこと」という約束をY君と両親の間で結ぶこととする。後述の記録シートを作成し居間の目立つ(家族全員が見ることができる)位置に貼る。Y君はゲームの開始時間と終了時間、そして上記の時間内に行えたかをそれぞれ記録し、両親または家族全員がそれをモニタリングする。また、上記の方法による介入と同期させて、遅刻の回数を担任からの情報をスクールカウンセラーが集約する形でモニタリングする。なお、記録シートは以下の様式にする。ここでは、コンピューターゲームを一定の時間内(19:00から20:00までの間)に限定して行ったかどうかに関するシートを示す。

Y君が19:00から20:00までの間にゲームができたかどうかの記録です。
始めた時刻と終わった時刻を書いて、できた日は○を、できなかった日
は×をつけてください。
月/日始めた時刻終わった時刻継続時間約束が守れたか
10月1日19:0320:0057分O
10月2日19:0021:38158分×

(6) 基礎線を取るときに注意して行うべき点としては、上記(1)で上げた、「Y君の
行動をアセスメントするために必要な他の情報」のそれぞれの仮説的な要因と修正すべきターゲット行動の構成要素である基礎線データ、すなわち「毎日のゲーム開始及び終了時間・就寝時間・起床時間」との相関関係をよく観察することである。このような注意深い観察が、上記の行動療法的な介入方法の効果を十分上げることにつながると考えられる。

【参考文献】
『社会福祉実践の新潮流―エコロジカル・システム・アプローチー』 
平山尚他著 ミネルヴァ書房 2001年
『ソーシャルワーク実践の評価方法 シングル・システム・デザインによる理論と技術』平山尚他著 中央法規出版 2002年
『ソーシャルワーカーのための社会福祉調査法』
平山尚他著 ミネルヴァ書房 2003年
『エコロジカルソーシャルワーク』カレル・ジャーメイン他著 学苑社1992年
『ソーシャル・ケースワークー問題解決の過程』H.H.パールマン著
全国社会福祉協議会 1967年

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